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宮城教育大学

児童虐待を防ぐために、
私たちが向き合うべきこと。

「きょうよりか もっともっと あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして」というノートを残して亡くなった目黒区の5歳の女の子。
こんな悲劇を忘れないため、繰り返さないために、お話しをうかがってきました。

「子どもは親の所有物ではない」ということを親が理解して接していくことが大切なのかなと思います。

先生の授業・研究について教えてください。

 私は精神科の医師で、その中でも児童精神医学を中心に臨床を行ってきました。専門としては不登校、AD/HD・自閉スペクトラム症を中心とした発達障害、そして子どもの虐待になります。授業では特別支援教育の領域の主に医学的な内容ということで、発達障害を中心に虐待のことも交えてお話ししています。気づきのプロとして心配な子どもに対応できるよう、虐待の歴史や一般的なこと、教師として何ができるかなどかなり詳しく触れています。

2013年3月号でもお話しいただきましたが、約5年半経って児童虐待の状況はどのように変化しているでしょうか?

 当時公表されていた「全国の児童相談所の児童虐待対応件数」は、平成23年度は59,191件だったと思います。最新の平成28年度のデータは122,575件ですから、わずか5年で倍になったということです。厚生省(当時)がデータを取り始めた平成2年度は1,101件でしたが、これまで前年度を下回ったことはなく、増加傾向に歯止めがかかりません。
 平成17年の児童福祉法改正で、虐待も含めた母子・父子に関する相談の第一義的な相談窓口が市町村の福祉担当部局になりました。そこで対応に苦慮したり、シビアなケースは児童相談所に繋げることになったのですが、市町村の窓口で止まっている件数が児童相談所での対応件数と同程度あります。つまり平成28年度で約25万件あると考えられます。さらに相談機関に関わっていない、学校や保育所だけで見ているケースも結構ありますし、もっと潜在的なのはどこからも把握されていない家庭の中で行われている虐待です。このなかに性的虐待がかなり含まれていると思われます。

増加の傾向・特徴としてはいかがでしょうか?

 児童虐待には身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的暴行、心理的虐待がありますが、心理的虐待の定義が広がったため、この割合が激増しています。心理的虐待は言葉かけや態度でいじめ抜くという問題ですが、兄弟姉妹間の差別、面前DV(子どもの目の前で配偶者や家族に暴力をふるうこと)などもこれにあたります。また、6月に目黒区で起きた虐待死事件もそうですが、教育熱心すぎる「教育虐待」も増えてきています。
 「乳幼児揺さぶられ症候群」というあまり馴染みのなかった虐待も増えてきているように感じます。これまで事故死や病死で扱われていたことに医療現場が気づき始めたためです。首の座っていない赤ちゃんを激しく揺さぶるため、頸椎骨折や脳内出血が起こるのですが、背景にあるのは子育てに対する「無知」だと思います。昔は成長する過程で周囲に小さい子どもがいたので自然と身に付いたものですが、少子化が進んだため「家族や子どもを持つことはどういうことか」という知識、親になるための教育が抜け落ちてしまっています。核家族化や都市化ということもあり、高齢者からの知恵の伝承などもなくなっています。そういったものを地域や教育で伝えて行く必要がありますね。

目黒の事件が報じられたのと同じ日の新聞に、岩手県北上市でも1歳9ヶ月の男の子が十分な食事を与えられず死亡したという記事が載りました。

 児童虐待が大阪・東京などの都会の病理と言われていた時代はとっくに過ぎ去り、今や都会・郡部を問わず虐待が蔓延しつつあります。かつては地域の結びつきが非常に強かった場所でも、あまり近所から干渉されたくない風潮になっています。もちろんご近所同士の挨拶や声かけで孤立を防ぐことが虐待を未然に防ぐ有効な手段なのですが、以前のような地域の結びつきを回復するのは難しいのではないでしょうか。
 北上市の案件は、父子家庭への支援策の少なさ、市の担当部局から児童相談所への支援依頼の在りかた、そして地域の結びつきの減少などいろいろ考えさせられます。
 こういった事案の大前提として「虐待のアセスメントはとても難しい」ということがあります。児童相談所などがリスクを認識しながら虐待と見抜けず、命を救えなかった事件が繰り返されています。その案件が虐待なのか、どのくらい深刻で、保護しないと命の危険があるのか、在宅支援でいいのかなどを的確に判断するのは至難の業です。それを現在の日本では一般行政職などの素人に委ねています。最近は全国の児童相談所の所長さんが児童精神科医であるとか、児童福祉司・児童心理司経験者などプロフェッショナルがなっているところも増えてきましたが、市町村の福祉担当部局も児童相談所も専門性が担保されることが必要です。

何か有効な改善策はないのでしょうか?

 それでも通告制度はずいぶん広がってきました。身近な家族・親戚・近所からの通告が増えてはいますが、通告をしないことへの罰則もないし、名誉棄損などで訴えられる免責もないなど法整備が遅れています。
 子どもたちを犠牲にしないためにも「疑いを持ったらまず通告」が大原則です。間違いだったら困るとか、ご近所関係が悪くなるなど迷うかもしれませんが、「子どもを救うために」という視点を一番大事にして欲しいです。そういったリスクは大人たちが、子どもを守るためのリスクとして受け止めなければいけません。通報は「189(イチハヤク)」に電話すれば、近くの児童相談所に繋がります。
 最近では警察も積極的に関わるようになってきました。以前は虐待やDVは民事不介入ということで入りこまなかったんですが、DVと虐待はリンクしている部分が大きいため警察側も児童相談所と連携して取り組んでいかなければとの認識が高まり、警察からの通告もずいぶん増えてきました。情報の共有も以前に比べたらできて来ています。

ままぱれ読者にアドバイスをお願いします。

 まず虐待が疑われる子どもに気づいたら、証拠集めは不要ですので通告してください。そして関心を持ち続けてください。事件が起これば関心を持つけれど、熱が冷めたら無関心ということのないよう、「愛の反対は憎しみではなく、無関心」(マザー・テレサ)ですから。これはメディアも同じで、事件の起こった時だけ騒いで当事者たちを糾弾するのではなく、制度そのものの基盤ができていないことを指摘し、議論して欲しいですね。
 日本は子育てをするのにちょっとストレスフルな国になってしまいましたが、子育てをする際に完璧な育児をしようとは思わないでください。間違いがあって当たり前ですし、それを次に生かしていけばいいのです。「子どもは親の所有物ではない」ということを親が理解して接していくことが大切なのかなと思います。

☎189(いちはやく)
※児童相談所全国共通ダイヤル
厚生労働省が虐待・通告・相談に対応するために設置した番号です。24時間受付、通話料無料。

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